BtoB企業は、一般には馴染みのないことが多い。横河電機もその類いだろう。祖業は計測機器で、会社自体の歴史は100年を超える。現在の主力製品は、プラントの生産設備の制御・運転監視を行う分散形制御システム。
石油・ガスを中心に、化学、電力、鉄鋼、紙パルプ、薬品、食品などさまざまな産業の発展を支える。
実に、世界60ヵ国113 社でビジネス展開し、4万を超えるプロジェクトへの納入実績があるグローバル企業だ。その横河電機が、大きく変わろうとしている。時代の変革期に舵を取るのは、奈良寿社長。2019年4月に就任した。
コーポレート・ブランド・スローガンは「Co-innovating tomorrow」。
令和最初のトップである奈良社長に、横河電機が目指す“明日”を聞いた。

 

Profile

奈良寿氏

1963年生まれ、立教大学卒。1985年横河北辰電機(現横河電機)入社。2001年「Yokogawa Engineering Asia Pte. Ltd.」副社長、2003年「Yokogawa (Thailand) Ltd.」社長。2011年より取締役。2013年、「横河ソリューションサービス」社長。2017年、取締役専務執行役員。2019年より現職。

休日のリフレッシュ方法は、都内の散歩や映画鑑賞。
横河ソリューションサービス時代、社内報のコラムに掲載していた写真を撮影していたことから、散歩のときにはベストショットを探しながら歩く。映画鑑賞は海外出張時の機内でも。日本で公開されていない映画を楽しむ。お気に入りの作品は『タクシードライバー』で、好きな監督はブライアン・デ・パルマ監督。また、機内は、ゆっくりと読書ができる貴重な時間。若い頃は司馬遼太郎の「翔ぶが如く」、入社時には高杉良の企業小説などを愛読したという。

 

自分の仕事は、会社全体にどう結びつき、貢献しているのか。大企業に所属している人ほど、実感が湧きづらいかもしれない。奈良社長はトップとして、「そこをつなげていきたい」と思いの丈を語る。「自分の仕事が、部門そして会社の実績にどう結びついているか、貢献度を実感できる仕組みをつくりたい。若い社員も企画を提案できるような社風にしたいですね」と奈良社長。ただし、自身は「私が若い頃は、そんな高い視座はありませんでした。夏のボーナスや自分の目標達成ばかりが気になっていたから」と笑う。
外連味のない語り口だが、時折、ユーモアを交えて話す姿が印象的だ。その印象通り、自らを「オープンな性格」と自覚している。心掛けているのは、同じ目線で、相手の立場を考えたコミュニケーションだ。会議や挨拶でも、年齢層や所属する部署、その日の天気まで考慮して話をする。曰く「波長を見る。一方的にならず、雰囲気を感じ取りながら話をします」。取材時も、ゆっくりと丁寧に、業界に明るくないインタビュアーにも分かりやすく話す。まさに、相手のことを考えながら話している印象だ。しかし、意外にも、元来はせっかちな性分だという。
「タイでの経験で変わったのかもしれません」と奈良社長は言う。横河電機の社長就任は今年の4月。しかし、社長歴は長い。最初は、今から16年前、40歳で就任した「横河タイランド」だ。
「タイは、本当におおらかでした。言葉を選ばずにいえば、いい加減(笑)。想定外のこともよくありました。最初はせっかちだからイライラしていましたね。ただ、何度もあると、想定外に驚かなくなる。むしろ、想定外を楽しんでしまえというモードになりました」
横河タイランドで得た経験は、それだけでない。経営のなんたるか、その基礎を知ることができたという。

 

 

「私は、もともと営業出身。しかし、立場上、営業だけを見るわけにはいきません。横河タイランドは当時300弱の会社。人事や経理など、全体を俯瞰することが求められました」と奈良社長。その後、50歳で「横河ソリューションサービス」の社長を務めることとなる。横河ソリューションサービスは、「横河フィールドエンジニアリングサービス」に「横河ソリューションズ」と「横河電機の一部」を吸収合併させて発足した。この吸収合併を「会社員人生のなかでも、かなり大変なミッションだった」と振り返る。
「お客様に対して、3社がそれぞれの立場でアプローチをすることで、無駄が生まれていました。それどころか、互いの利益が相反して、お客様が混乱することさえあった。これはひとつにしたほうが合理的だと判断したのですが、当然、反対意見もある。成し遂げるまでに3年かかりました」
新会社として心をひとつにするため、人事制度も報酬制度も統一し、徹底した成果主義に。配置も適材適所を貫いた。奈良社長は、「社員はついてくるのは大変だったかもしれません。それでも、やると決めたらやり抜きました」と語る。そして、そのやり抜く姿勢は、ドラスティックな進化を目指す、今の横河電機の舵取りへと引き継がれている。その進化は、中期経営計画「トランスフォーメーション2020」に見てとれる。

「トランスフォーメーション2020」は、前中期経営計画のフェーズ2にあたる。フェーズ1は、2015 〜17年の「事業構造変革による成長基盤の整備」。フェーズ2は、2018 〜20年の「成長機会の創出と成長基盤の確立」。2020年からは「高収益企業へのさらなる成長発展」のフェーズだ。フェーズ1は言わばホップ。西島前社長(現会長)の元、成長の礎を築いた。それを引き継ぎ加速させるのが、奈良社長、最大のミッションだ。表情が引き締まり、「フェーズ2にあたる今は、次のフェーズでジャンプするために力を貯める、ステップの時期です。特に基本の3戦略を実行し、目標を達成することが求められます」と語った。3戦略とは、「既存事業の変革」、「新事業のビジネスモデル変革への挑戦」、「グループ全体最適による生産性向上」だ。特に、前のふたつは喫緊の課題である。