現在、売上高の約9割を占める制御事業は、プラントの新規建設といった大型プロジェクトに依存している。「既存事業の変革」の目標のひとつは、プラントのライフサイクルにわたる長期的な支援と新たな改善提案を繰り返すようなビジネスモデルへの進化。奈良氏曰く、「OPEX(Operating Expense)ビジネスの拡大」だ。
「OPEXビジネスの拡大は、既存事業の変革にあたります。新規の案件に頼ることなく、オペレーションとメンテナンスにより、お客様が持っている資産を効率化。より高い収益性のお手伝いをします」
鍵は、データ活用にある。横河電機は、世界中で4万のプロジェクトでプラント制御の実績がある。そのシステムから上がってくる現場の生産データは膨大なものだ。このデータを収集・分析して、お客様の経営にインパクトを与える。こうなると、ライバルはメーカーではなく、コンサルティング会社だ。奈良社長は「世界的なコンサルのライバルが多摩地区に本社を構える我々で恐縮です」と笑いながら謙遜するが、クライアントは本質を見抜いている。
「ありがたいことに、プラントから上がってくるデータの“意味”を知り、どう生かせばいいかを知っているのは横河だ、と言っていただけています。それは、現場でプラントを制御してきたからこそ得られる知見に加えて、お客様との長期的な関係を構築し、ビジョンが共有できていることや、グローバルネットワークとローカル対応力による持続的なサポートサービス体制、堅実なプロジェクト管理に支えらえたシステムインテグレーション力などをバックボーンにした〈最後までやりとげる実行力〉があるからだと自負しています」と奈良社長は語る。そして、「これまでは生産活動の現場でビジネスを行ってきました。これからは、お客様のバリューチェーン全体の事業活動の課題を解決していきます」と意気込んだ。その種は蒔かれている。2016年にはイギリスのコンサルティング会社『KBC』をM&A。既存の強みに加えて、企業レベルでの戦略的コンサルティング、既存資産のパフォーマンスの最適化といった強みも得て、経営レベルから現場レベルまで、ワンストップのコンサルティングが可能になった。

今の時代、自社だけでビジネスを推進することは考えられない。

M&Aは。KBCに留まらない。とかく、日本の大企業は自前主義に陥りがちと言われるが、奈良社長は「今の時代、自社だけでビジネスを推進することは考えられない」と考える。「大事なのはエコシステム。足りない部分があれば、M&Aや協業で、人材やナレッジを獲得していきます。特に協業では、ある部分では競合かもしれないが、ある部分では仲間としてビジネスを推し進める。そういった形になっていくでしょう」と続けた。その言葉通り、昨今ではスタートアップ系IT企業との共創も多い。プラント制御にもデジタルトランスフォーメーションを推し進めるために、フォグコンピューティングの先端技術を持つ米ベンチャー、フォグホーンシステムズに出資。また、マイクロソフトなど米英のIT関連企業4社と技術開発にも取り組む。
「次世代通信規格である5Gの普及やクラウドの活用で、IIoT(インダストリアルIoT)は加速していきます。これは、プラント制御にとっても、大きな変革となるでしょう。OT(オペレーショナルテクノロジー)で培ってきた安全性や信頼性、品質をITと融合化させ、新たなる価値を生み出す。これが、今、当社に課せられた命題です」
スタートアップ系IT企業との協業は、社内にも新しい風を吹かせつつある。「ゆっくりとしたリズムで踊っていた社員が、アップテンポで踊るようになった」と社内で例えられるほど。スタートアップの人と交わることで刺激を受けて、スピード感もでてきたという。
そのスピード感は、「新事業とビジネスモデル変革への挑戦」にもつながっている。具体例が、ライフイノベーション事業の確立と拡大、なかでもバイオ分野の強化だ。バイオ分野では、細胞レベルのコントロールが必要。横河電機でも、研究機関向けにがん細胞などを細胞単位で抜き出せる装置などを開発している。計測は、横河電機の祖業であり、コアコンピタンス。ここに、プラントの制御で培った予測制御などを組み合わせることで、細胞の培養に最適化されたソフトウェアなどを開発する。
「飛び地ではなくて、これまでの技術やコアコンピタンスを活用して、世のなかに貢献できる分野にライフイノベーションを起こす」という。
「健全な危機感」。奈良社長は、現状をそう表現する。社会環境やテクノロジーの急激な変化は、試練でもあるが、横河電機自体が変わり、進化するチャンスでもある。そして、そのために必要なアセットは、100年超の歴史で十二分に培われている。そのアセットと共創をもって、生産プロセスだけでなく、ビジネス全体、サプライチェーンにわたる包括的なソリューションの提供を目指す。これは、大きな変革であり、チャレンジだ。しかし、これまでも企業理念にある、「勇気をもった開拓者であれ」の言葉を実践してきた横河電機。奈良社長が率いる「勇気をもった開拓者達」も、必ずや成し遂げることだろう。

 

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サスティナビリティへの取り組みでダボス会議で「Global 100」に選出

企業理念として「良き市民」を掲げる横河電機。石油やガスの精製プラントの制御を事業とすることから、サスティナビリティへの取り組みは切っても切り離せない。以前から自然と環境に配慮した経営を続けた結果、2019年には、ダボス会議で発表される「Global100 世界で最も持続可能な100社」に選出。「クリーンな商品売上」と「イノベーション創出力」が高く評価された。
また、2017年からは、サスティナビリティへの取り組みを明文化。2050年に向けて目指す社会として、サスティナビリティ目標「Three goals」を設定した。3つのゴールとは、CO2を削減する「Net-zero emissions 気候変動への対応」、廃棄物を減らし循環型社会を目指す「Circular economy 資源循環と効率化」、幅広い分野で人々の健康と豊かな暮らしを支援する「Well-being すべての人の豊かな生活」。これらは、国連が定める「SDGs(持続可能な開発目標)」にも対応している。それぞれに数値目標を定めるだけでなく、取り組みによりお客様が得られる経済価値と社会・環境価値を整理、明確にした。

Company Profile
創立:大正4年(1915年)9月1日
設立:大正9年(1920年)12月1日
資本金:434億105万円
従業員数:約1万7814人(連結、2019年6月現在)
主な事業内容:制御事業、計測事業、航機その他

text_Tsukasa Sasabayashi, photo_Shoko Takayasu